2008年/5月号
1.
今日のはじめに
太郎
「野村さん、オレ、昔、家ン中であばれてたっスよ」
野村「知ってるよ、ずっと以前、お母さんが相談してくださったから」
太郎
「じゃ、こないだの学校だよりみたいなやつ、やっぱオレのこと?」
野村「なワケないじゃんか(笑)、ワシの思い出話だよ、16年間の」
2.
冬は必ず春になる
臨時の増刊号を読んでくれたのでしょう、GW開けのある日、
一人の生徒さんとそんな立ち話をしました。
「知ってたのに、野村さんは何も言わんでフツーにオレと接してたって、なんかヘン」と、
太郎が言ったんで、私(=野村)は以下のようなことを太郎に語った。
「あのね、母親って、タイヘンなんよ。お母さんが子育ての大部分を引き受けてる家って、
子どもの成長イコールお母さんの通知表、みたいに思い込むお母さんが多くてね。
たとえば、私立中学合格、イコール、お母さんの子育て成功。不登校、イコール、お母さんの失敗。
みたいに思い込まされる状況になっちょる。
するとね、お母さんは『これダメ』『あれやれ』って、そりゃ言うよ。
心理学では、支配性とか操作性って呼んでるけど、言われてる子どもからしてみれば軽くウザイ。
小学校の高学年にもなれば、わりとウザイ。中学校でかなりウザイ、高校生にとってはマジ、ウザイ。
いずれにしても、親御さんの支配性とか操作性から脱出するために、子たちっていろんなことするさ。
だまりこくったり、仲間遊びしたり、家をブチめいだり(笑)、いろいろいろいろ。
お母さんにすれば、いろいろされちゃったら子育ての偏差値が下がってしまうんで、
子どもをガンジがらめにしようとする。子どもはガンジがらめが苦しいから、
もっといろいろやったりする。あるんよ、そんなことって、日常的に。
ザクッと言うけど、母親ってつらいんだぜ。自分の子が産まれたのを『おととい』のことくらいに
思ってるのに、いつの間にか子どもが自分から離れようとしている 認められんよ、そんなこと。
認められんから、子どもを囲い込もうとしてみたり、ダンナにトラブルぶつけて自分に
ふりむいてもらってみたり、タイヘンだ、母親は。父親も、だけど。
太郎があばれよったのは、それなりのリクツで説明できる。太郎があばれんようになったんは、
君の変化じゃなくて。たぶん、お母さんの内側で何んかの変化があったんよ、きっと。何かって?
知らんよそんなこと!ホンマはわかっちょるけど、(笑) 。」と。
ところで。私(=野村)の中の思い出の父母像は、繰り返されたひとつのメッセージに集約される。
「おまえはお父さんとお母さんの子なんだから、お父さんお母さんくらいにはなるし、
お父さんお母さんくらいにしかならん」、と。
私(=野村)は「カエルの子はカエル理論」で育てられたらしい(笑)。
ある時期まで、それは安心のメッセージだった。ある時期からそれは、自らを変化へと
向かわせるメッセージとなった。カエルの子はカエル理論にもとづく私(=野村)の両親の子育ての
通知表は、私(=野村)の人生の評価が定まってないんで、いまだ確定していません。
親に渡される子育ての偏差値って、お墓の中で見るものらしいですネ(笑)。
お母さん。死んでから渡される偏差値なんか気にせず、
「冬は必ず春になる」とか、思ってみるのがいいカモ、です。
3.
美能交笑
お母さんはタイヘンぞ、と書いた。
たぶん、子たちのほうがもっとタイヘンなのかもしれない、を書きます。
イジメとかあるじゃないですか。ナーンも知らんオバハンとかオッサンが、
今でも「弱い者イジメ」の構造を得意げに解説しながら、
加害者・被害者・傍観者みたいな説明をしよる。けどね、そんな分析してみたって、
今どきのイジメはゼンゼン見えてこんのとちゃうか?
で、いきなり、美能交笑(ビノーコーショー/私(=野村)の造話だから辞書には載っちょらん)。
美
。美は「カワイイ・カッコイイ」等の審美主義的主観。
能
。能は実に様々な能力。成績として評価される学力をはじめ、
スポーツ・アートなどなどにからむ、あらゆる能力。
交
。交は交友関係の成立と継続と変化に関する対応方法。
笑
。笑は商業主義的笑い場面への主体的参加度合。
4つ合わせて、美能交笑。序列で言うと、
「見てくれ」「成績」「トモダチ」「ボケ・ツッコミ」の順となる。
今どきの子たちって、「カワイイ・カッコイイという見てくれで、成績は良くなきゃなんないけど
決してそれを誇ってもいけなくて、トモダチに気をつかいながらへとへとになってトモダチを大切にして、
ボケ・ツッコミに代表されるテンションの高い笑い場面にいつも参加してなきゃ、
学校での安全と安心がキープできない」ように見えてしかたない。
これは、タイヘンなことぞ。
「美能交笑」のひとつでも欠けたり、どれかが低く評価されると
「おまえは人生の落ご者だ!自分の分際を思い知れ!!」ってことになってしまって、
とことんイジられていく。
学校では、ちょくちょく小さな事件が起きるじゃんか。うわばきが隠されたり、カサが切られたり、
制服が捨てられたりとか、その他もろもろ。イジメ、とまでは断定できないタチの悪いいたずらが、
よーけ起きよる。
なして?
警告のメッセージ、と、私(=野村)は思う。「あんた、自分のブンザイ、わきまえてないことない〜?
最近、ちょっとはしゃいでるみたいだけど 」とか。
「おまえ、背が小さいのに、ナニ、自己主張してんのか〜?自分のブンザイ、教えちゃるけ〜のぉ〜」とか。
ウス気味悪い警告のメッセージが、学校の中だけじゃなくって、世の中に充満しちょるじゃないか。
学校の中だけじゃない、というのは、「美能交笑」って、世の中そのものと考えるからだ。
4つの規準にはそれぞれにランキングがあって、「勝ち組・負け組」とネーミングされてね。
高校生は無職なので、大人社会みたいに「能」の中の経済力が、本人の能力としてはランキングされない。
だけど、そこには親の経済力が必ず影響してくるんであって、そしたらやっぱし「美能交笑」って、
マンマ、世の中の価値観だよ。
社会の価値観はいつの時代もそのまま学校の価値観だ。学校の中で、
今、子どもたちは「美能交笑」の序列化競争を競う。優勝劣敗のルールの中で生きている。
ノーテンキな先生も中にはいるから「子どものイジメは子どもの力で解決させます!」とか言いよる。
しかし、「イジメは解決しました!」とか、その先生が喜んでるカゲで、
「子どもの格差」がカンペキに序列化されていたりしてネ。
オイオイ、亡ぶど。この国はホンマに。
「美能交笑」という序列化の規準は、たとえばヘクトパスカルとかミリメートルとか、
客観的に数値化することのできない、質的なものだ。
「学力の偏差値は数値化できる!」って反論されるかもしれんけど、
「校内一番、スッゲ〜」であっても、全国的には平均以下であったりする。
つまり、相対的な位置関係しか見ることができんのよ、偏差値って。
むしろ、「スッゲ〜」という質的なことがらこそ、学校においてはイミがある。
数値化されない質的規準であるがゆえに、それはしばしば質的に変化する。
すると、きのうまで序列ナンバーワンだった生徒が、ある日突然、その地位をうばわれたりする。
ナーンも知らんオバハンやオッサンが「加害者と被害者が入れ変わる」と観察する現象のことだ。
加害者―被害者の交代ではなく、価値基準の質的変化が起きたんよ。力関係の変化じゃないさ。
この変化に敏感であることが、学校における序列競争を生き延びるためには不可欠だ。
なので、KY(空気が読めない)はとことんイジられるし、メールしながら変化の潮目に
取り残されないよう、ケータイに一日中しがみついたりする。くたびれるよね、これって。
お母さんもタイヘンだけど、子どもは、もっともっとタイヘンだ、と思うのであります。
で、またまたいつものいきなり 。
「やめた!もう、やめ!自分を押し殺してまわりに合わせるなんて、できっこないじゃんか。
ワケワカラン人間関係ゲームなんかやめちゃって、おだやかで平凡な暮らし、していくど〜。
(帰りなん、いざ。田園まさに蕪(ア)れんとす、なんぞ帰らざらんや。
すでに自ら心をもって形の役となし・・・・帰りなん、いざ。親戚の情話をよろこび、琴書を楽しんで憂いを消さん・・・・)」。
陶淵明、帰去来の辞。
こんな訳しかたすると、テストじゃと零点(笑)。けど、作者の心からは、遠くない。
1600年の昔、ひとりの男の心の中に起きた質的転換が、今の子たちにも必要なんだろうと思っています。
4.
今日のおわりに
君のことを、愛している。君のことばかり考えている 。
私(=野村)のかわいいネムの子たちさん、君たちの心の中に質的な転換を起こすのは、
すぐれて君たちのモデルである大人の側の問題だ。
今日書いた「美能交笑」とは、ムキ出しの競争原理のこと。
グローバル化した現代の資本主義社会をつらぬく新自由主義という考え方が、一人一人の人生を規定してくる。
だからこそ「勉強、するど」。グローバリズムというやっかいなバケモノをとらえるために 。
エッ?勉強したら、どうなるかって?
以下の5つの、いずれかだろう。
(1) わが国の歴史に対する誇りを極端に強調しはじめる(ナショナリズムかヨ )。
(2) ヤッハウェーとかアッラーとかの単語が熱く語られる(宗教原理主義かヨ )。
(3) 山にこもる(文明否定論者かヨ )。
(4) キューリは夏しか食べなくなる(持続可能な地域社会、ローカリズム)。
(5) 自家用ジェット機で毎日遊んで暮らす(・・・・・・・・・・)。
いずれであれ、君たちの人生だ、いずれも正解。ただ、いずれかであれ。
主体的な個人であるために。今日は以上です。
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